会社の将来は考えていても、ご自身の引退後のことを考えていますか?小規模企業共済は、小規模企業の経営者や役員、個人事業主のための積み立てによる退職金制度です。国の機関である中小機構が運営しているので安心だと感じる方も多いと思います。
本記事では小規模企業共済のメリットや投資との違いについて解説します。全国ですでに約162万人の方(2023年3月末現在)が加入している小規模企業共済で、将来への備えを始めましょう。
「小規模企業共済」とは?
まずは小規模企業共済の概要をご説明します。
小規模企業共済が設立された趣旨
小規模企業共済がスタートしたのは昭和40年のことです。
以下の2つを趣旨として設立されました。
- 小規模企業の経営者や個人事業主などが廃業や退職した際、その後の生活の安定や、事業の再建に備えるため
- 小規模企業経営者や個人事業主などは一般の労働者・従業員に比べて社会保険や労働保険などの恩恵を受けていることが少ないため、社会保障政策の補充をする機能を果たすため
その後、時代や社会の変化とともに制度の内容が拡充されました。現在では約162万人が加入(2023年3月末現在)しています。
加入資格
小規模企業共済制度には加入資格があり、次のいずれかに該当する方は加入できます。
- 建設業、製造業、運輸業、サービス業(宿泊業・娯楽業)、不動産業、農業を営む場合は、常時使用する従業員の数が20人以下の個人事業主または会社などの役員
- 商業(卸売業・小売業)、サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)を営む場合は、常時使用する従業員の数が5人以下の個人事業主または会社などの役員
- 事業に従事する組合員の数が20人以下の企業組合の役員、常時使用する従業員の数が20人以下の協業組合の役員
- 常時使用する従業員の数が20人以下で、農業の経営を主として行っている農事組合法人の役員
- 常時使用する従業員の数が5人以下の弁護士法人、税理士法人などの士業法人の社員
- 上記1と2に該当する個人事業主が営む事業の経営に携わる共同経営者(個人事業主1人につき2人まで)
配偶者などの事業専従者で共同経営者の要件を満たしていない場合や、会社などの役員とみなされても商業登記簿謄本に役員登記されていない場合は加入資格がありません。
また商業登記簿謄本に役員登記されていても経営に従事されていない場合も加入資格はありません。
共済金は2種類
共済金などは共済契約者の立場や請求事由によって、受け取れる共済金などの種類が異なります。
共済金等の種類 | 個人事業主 | 法人 | 共同経営者 |
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共済金A |
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共済金B |
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準共済金 |
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解約手当金 |
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- ※1…65歳以上で180か月以上掛金を納付された方
- ※2…掛金を12か月以上滞納した場合
受取額がもっとも高いのは共済金A、続いて共済金B、準共済金の順番です。掛金納付月数が240か月(20年)未満で任意解約した場合の解約手当金は掛金合計額を下回ります。
例えば、掛金月額1万円で加入した場合、共済金などの額は以下の通りです。
掛金納付年数 | 5年 (掛金合計額: 600,000円) |
10年 (掛金合計額: 1,200,000円) |
15年 (掛金合計額: 1,800,000円) |
20年 (掛金合計額: 2,400,000円) |
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共済金A | 621,400円 | 1,290,600円 | 2,011,000円 | 2,786,400円 |
共済金B | 614,600円 | 1,260,800円 | 1,940,400円 | 2,658,800円 |
準共済金 | 600,000円 | 1,200,000円 | 1,800,000円 | 2,419,500円 |
小規模企業共済のメリット
小規模企業共済への加入には、さまざまなメリットがあります。主なメリットをご紹介します。
掛金の全額が所得控除できる
小規模企業共済は、小規模企業の役員や個人事業主などが廃業や退職に備えて積み立てできる制度です。掛金は税法上、全額を課税対象となる所得から控除できることが小規模企業共済の大きなメリットです。
小規模企業共済の掛金は月額1,000円から7万円までの範囲内から500円単位で自由に選べます。確定申告時には、全額を課税対象所得から控除できるため、高い節税効果があります。
どのくらい節税効果があるかは、中小機構の「小規模企業共済制度加入シミュレーション」より試算可能です。例えば毎月の掛金を50,000円にした場合の年間節税額は、課税所得金額が400万円の方が182,500円、800万円の方が200,900円、1,000万円の方が262,200円です。
事業者も退職金が出る
退職金制度は長丁場で短期間では損をしてしまうと思いがちですが、小規模企業共済は加入後の掛金納付が6か月以上であれば、事業をやめた場合などに共済金が出ます。掛金の全額所得控除による節税効果もあるため、たとえ加入期間が短期間でもメリットがあります。
例えば法人役員をやめられて共済金を受給し、その後にご自身で創業すれば加入することも可能です。ただし、掛金の納付が6か月未満の場合は共済金の支払いはされず掛け捨てになるためご注意ください。
掛金は増額や減額が可能
小規模企業共済の掛金は1,000円から7万円までの範囲内から500円単位で自由に選べて増額や減額も可能です。経営状況の悪化などで掛金を継続して納付するのが困難になった場合は、掛金を減額できます。
契約1年未満で解約すると掛け捨てになります。しかし、掛金を1,000円にするなど減額すれば、解約しなくても継続できます。
状況に合わせて金額を自由に変更できることは知っておきたいメリットの一つです。
共済金は一括でも分割でも受け取りできる
小規模企業共済には満期や満額がありません。退職や廃業時には一括、分割、一括と分割の併用から選んで受け取れます。
一括で受け取る場合は退職所得扱いに、分割で受け取る場合は公的年金等の雑所得扱いになるため、税制メリットもあります。
貸付制度を利用できる
加入者は、掛金の範囲内(掛金納付月数により掛金の7割〜9割)で事業資金等を低金利で借り入れできます。貸付制度は借り入れの目的によって限度額や借入期間、利率などが異なります。
- 一般貸付制度…もしものとき、迅速に事業資金を借り入れできる制度。
- 緊急経営安定貸付け…経済環境の悪化などによって、一時的に売上が減少して資金繰りが著しい支障をきたしたとき、事業資金を低金利で借り入れできる制度。
- 傷病災害時貸付け…疾病や負傷により入院したとき、または災害による被害を受けたときに経営の安定を図るため、事業資金を低金利で借り入れできる制度。
- 福祉対応貸付け…共済契約者または同居の親族の福祉向上のための住宅改造資金、福祉機器購入などの資金を低金利で借り入れできる制度。
- 創業転業時・新規事業展開等貸付け…創業転業時貸付けは、新規開業・転業後に共済契約を再び締結する意思がある者に対して、新規開業・転業を行う際に事業資金を低金利で借り入れできる制度。新規事業展開等貸付けは、共済契約者の事業多角化に要する資金や、共済契約者の後継者が新規開業あるいは事業多角化に要する資金を低金利で借り入れできる制度。
- 事業承継貸付け…事業承継の際に必要となる資金を低金利で借り入れできる制度。
- 廃業準備貸付け…個人事業の廃止や会社の解散を円滑に行うため、設備の処分費用や事業債務の清算など、廃業の準備に必要な資金を低金利で借り入れできる制度。
借り入れできる金額の上限は掛金の範囲内で、一般貸付制度が10万円以上2,000万円以内、一般貸付制度以外の貸付制度が50万円以上1,000万円以内です。利率は金利情勢を踏まえて設定されます。現在の利率は一般貸付制度が1.5%、一般貸付制度以外が0.9%です。借り入れの際は事前に貸付条件等のご確認をお願いします。
投資とは何が違うの?
小規模企業の経営者や個人事業主が退職金を準備する方法として、小規模企業共済のほかにiDeCoなどの投資も利用されます。小規模企業共済と投資では何が違うか気になっている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
投資は資産を大きく増やせる可能性もありますが、価格変動リスクや金利変動リスク、為替変動リスクなどによって元本割れすることがあります。
一方、小規模企業共済は、6か月以上掛金納付すれば事業をやめた場合に支払った分を共済金として受け取れます。解約でなければ掛金合計額を下回ることはありません。
掛金納付期間が36か月以上の共済契約者には、掛金に金利相当額を加算した共済金が支払われます。
掛金は全額所得控除になり、6か月以上掛金納付すれば事業を廃業したり退職したりしたとき確実に共済金を受け取れるという安心感があります。
まとめ
小規模企業共済は、国の機関である中小機構が運営する安心の退職金制度です。個人事業主など退職金がない方も、小規模企業共済制度に加入していれば廃業や退職時に共済金を受け取れるので、老後の資金を確保できて安心です。
契約1年未満で解約すると掛け捨てになります。掛金は1,000円から500円刻みで70,000円まで自由に選べるため、納付が厳しくなったときはすぐに解約せずに、減額を考えてみましょう。
節税しながら退職金を積立できて、資金が必要になったときは低金利の貸付制度も利用可能です。小規模企業の経営者や個人事業主が多くのメリットを得られる共済制度なので、ご自身の引退後のことを考えて、小規模企業共済への加入をご検討ください。