小規模企業の経営者や個人事業主の方は、取り巻く経済環境の不安により将来に向け安心できるものをお探しではないでしょうか。リスクを避け将来の安定に繋げるための取り組みは無いものか考えられていることと思います。
小規模企業共済は、事業を廃業したときや退職したときに備えて退職金を積み立てしながら税制メリットもあります。税制優遇のある将来への備えとして小規模企業共済を活用してはいかがでしょうか。
「小規模企業共済」とは?
小規模企業共済とは、経営者や役員の方、個人事業主の方が廃業や退職後の生活資金などのために積み立てる退職金制度です。将来に備えながらも掛金は全額控除されるため、税制メリットが大きいことが特徴です。国の機関である中小機構が運営しているため安心感があり、約162万人の方が加入しています。(2023年3月末現在)
小規模企業共済のメリット
小規模企業共済への加入には多くのメリットがあります。一つずつ確認していきましょう。
掛金が全額所得控除される
小規模企業共済は、廃業後や退職後に備える積立制度です。掛金を1,000円~70,000円の範囲内で積み立てながら、確定申告の際に全額を小規模企業共済等掛金控除として課税対象から控除できます。
所得金額別の控除額は以下の通りです。
課税される 所得金額 |
掛金月額 1万円 |
掛金月額 3万円 |
掛金月額 5万円 |
掛金月額 7万円 |
---|---|---|---|---|
200万円 | 20,700円 | 56,900円 | 93,200円 | 129,400円 |
400万円 | 36,500円 | 109,500円 | 182,500円 | 241,300円 |
600万円 | 36,500円 | 109,500円 | 182,500円 | 255,600円 |
800万円 | 40,100円 | 120,500円 | 200,900円 | 281,200円 |
1,000万円 | 52,400円 | 157,300円 | 262,200円 | 367,000円 |
中小機構のホームページに「小規模企業共済制度加入シミュレーション」がありますので、ご自身の節税効果がどのくらいか試算可能です。
掛金は税法上、小規模企業共済等掛金控除として課税対象となる所得から控除できます。共済契約者の収入の中から払い込むことになるため、事業上の損金や必要経費には算入できません。また、1年以内の前納掛金も控除できます。
増額や減額が可能なので無理なく積み立てできる
小規模企業共済の掛金月額は1,000円から70,000円の範囲内で、500円単位の金額から選べます。途中で掛金の増額や減額も可能なので、無理なく積立できるのも小規模企業共済のメリットの一つです。
掛金額が大きければそれだけ大きい税制メリットがありますが、将来何らかの理由で納付が困難になるケースも考えられます。そのような場合は、掛金の減額ができるので安心です。掛金の下限は1,000円なので、状況が変わったときも無理なく積み立てできます。
小規模企業共済は加入後の掛金納付が6か月以上であれば事業をやめた場合に共済金が出ます。しかし、6か月未満の場合は掛け捨てになるので注意が必要です。任意解約も可能ですが、12か月未満で任意解約した場合は掛け捨てになり、20年(240か月)未満で解約した場合は受け取れる金額が掛金合計額を下回ります。
そのため、掛金の納付が困難になったときでも、解約せずに掛金を減額するのがおすすめです。無理なく継続的に掛金を行っていくことが退職後の生活を安定させるために繋がります。
前納すると前納減額金が受け取れる
掛金は月払いも年払いも可能です。毎月無理なく積立をしたい方には月払いが適していますが、お得なのは年払いです。掛金を前納すれば、一定割合の前納減額金が受け取れます。
低金利の貸付制度を利用できる
加入者は貸付制度を利用できます。貸付制度とは、掛金の範囲内(掛金納付月数により掛金の7割〜9割)で借り入れできる制度です。急に事業資金が必要になったとき、迅速に借り入れできるので安心です。
貸付制度は借り入れの目的によって限度額や借入期間、返済方法、利率が異なります。例えば、もしものときに借り入れできる「一般貸付制度」は、掛金の範囲内で10万円以上2,000万円以内(5万円単位)の金額を年利1.5%で借り入れできます。
借入期間は6か月から60か月で設定されていますので、借入金額に応じた借入期間の選択が可能です。借入金の返済方法は、借入期間によって異なり、借入期間が6か月または12か月の場合は、期限一括償還ですが、24か月、36か月、60か月の場合は6か月ごとの元金均等割賦償還です。
傷病災害時貸付けや緊急経営安定貸付けなど、状況や目的に応じて年利0.9%で借り入れできる貸付けもあります。
NISAやiDeCoとは何が違う?
老後の資金をためる方法として、NISAやiDeCoもよく選ばれます。小規模企業共済とNISAやiDeCoは将来への備えという点が共通していますが、以下の相違点があります。
小規模企業共済 | NISA(つみたてNISA) | iDeCo | |
---|---|---|---|
加入資格 | 小規模企業の経営者・役員、個人事業主など | 18歳以上 | 20歳以上65歳未満(一定の条件があります) |
掛金 | 月額1,000円〜70,000円 | 上限は年間40万円 | 月額5,000円〜68,000円 (加入区分によって上限が異なります) |
運用方法 | 中小機構が運用 | 長期・積立・分散投資に適した一定の投資信託を加入者が選んで運用 | 運用商品(定期預金、保険商品、投資信託)を加入者が選んで運用。 |
税制上のメリット | 掛金全額が所得控除の対象。 | 運用益は20年間非課税。 | 掛金全額が所得控除の対象。運用益は非課税で再投資される。 |
途中解約 | 可能(納付期間240か月未満で解約すると掛金合計額を下回ります) | 可能(払い出し制限なし) | 原則不可(60歳まで引き出せない) |
貸付制度 | あり | なし | なし |
【参考】NISAとは?│NISA特設ウェブサイト(金融庁)/iDeCo(イデコ)の仕組み│iDeCo公式サイト(国民年金基金連合会)
NISAの特徴
NISAには「一般NISA」「つみたてNISA」「ジュニアNISA」の3種類があります。一般NISAとつみたてNISAは20歳以上、ジュニアNISAは未成年が利用できます。主な違いは以下の通りです。
- 一般NISA…株式・投資信託などを年間120万円まで購入できて、最大5年間非課税で保有できる
- つみたてNISA…一定の投資信託を年間40万円まで購入できて、最大20年間非課税で保有できる
- ジュニアNISA…株式・投資信託などを年間80万円まで購入できて、最大5年間非課税で保有できる
つみたてNISAは非課税期間が長いため、老後の資金の積立に向いています。なお、ジュニアNISAは2023年末で終了。2024年以降は新しい制度になり、現行制度とは主に以下の点が変わります。
- つみたて投資枠(年間120万円)と成長投資枠(年間240万円)の費用が可能になるので、年間最大360万円まで投資可能
- 非課税保有期間の無期限化
- 非課税保有限度額は全体で1,800万円
- 対象年齢は18歳以上
iDeCoの特徴
iDeCoは確定拠出年金法に基づいて実施される私的年金制度です。加入対象となるのは以下の通りです。
- 国民年金の第1号被保険者(20歳以上60歳未満の自営業者と家族、フリーランス、学生など)
- 国民年金の第2号被保険者(厚生年金の被保険者)
- 国民年金の第3号被保険者(厚生年金の被保険者に扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者)
- 国民年金の任意加入被保険者
運用については自分の運用方針(許容するリスクのレベル感、目標利回り)を定め、運用商品を自分で決めます。掛金は全額所得控除され、運用益は非課税で再投資されます。受け取るときは公的年金等控除の雑所得または退職所得控除の対象です。
iDeCoは税制の優遇が行なわれますが、老後の資産形成を目的とした年金制度のため、原則として60歳まで引き出すことができません。通算加入者等期間が10年に満たない場合は受給可能となる年齢が繰り下げられます。
小規模企業共済とNISA、iDeCoの異なる点
NISAやiDeCoは投資なので、元本割れするリスクがあることが小規模企業共済との違いです。小規模企業共済は加入後の掛金納付が6か月以上であれば、事業をやめたときに共済金が支払われます。掛金納付月数が36か月以上の共済契約者には、掛金に金利相当額を加算した共済金が支払われます。
掛金納付月数が240か月(20年)未満で任意解約した場合は掛金合計額を下回ります。掛金の下限は1,000円なため、掛金の継続に支障が生じた場合には掛金を減額すれば任意解約しなくても継続できます。急に事業資金が必要になったときは、貸付制度を利用できる点もNISAやiDeCoとの違いです。
iDeCoは掛金が所得控除されるため、小規模企業共済と併用すればより税制メリットが大きくなります。小規模企業共済とNISA、iDeCoの仕組みの違いを知ったうえで、目的に合ったものを検討してみてはいかがでしょうか。
まとめ
小規模企業共済は税制メリットの大きい積立金制度です。掛金は全額所得控除されるので、毎年節税しながら将来のために備えておけます。
小規模企業共済と同じように将来へ備える方法としてNISAやiDeCoがあります。どちらも将来のために備えながら税制上の優遇がありますが、投資という点が小規模企業共済との大きな相違点です。
将来に備えながらより高い節税効果を得たい方は、小規模企業共済との併用を検討してはいかがでしょうか。