小規模企業共済にデメリットはあるの?
基本的な仕組みについて解説!

小規模企業共済は、国の機関である中小機構が運営する小規模企業の経営者や役員、個人事業主などのための積み立てによる退職金制度です。法人が解散したときや役員の方が退任したとき、個人事業主が廃業したときに積立金額に応じた退職金を受け取ることができます。
しかし、デメリットや注意点がないのか心配な方もいらっしゃるでしょう。本記事では、小規模企業共済にデメリットは存在するのかという部分や、制度の基本的な仕組みなどを解説します。

「小規模企業共済」とは?

小規模企業共済とは、小規模企業の経営者や役員、個人事業主の方などが、廃業や退職後の生活資金などのために積み立てる退職金制度です。国の機関である中小機構が運営しています。掛金は所得控除できるため、節税しながら将来のために備えられます。

小規模企業共済にデメリットはある?

小規模企業共済は将来のための積立金のため、途中で解約する場合や受給時には以下に注意する必要があります。

  • 加入期間が12か月未満で任意解約すると掛け捨てになる
  • 掛金納付月数が20年未満で任意解約をした場合、掛金合計額を下回る
  • 共済金受給時に課税される

ただし、任意解約は加入者が任意で行うものであるため、回避する方法を知ればデメリットではなくなります。以下で詳しく紹介いたします。

加入期間が12か月未満で任意解約すると掛け捨てになる

小規模企業共済は、加入期間が12か月未満で任意解約をすると解約手当金が出ないため、掛け捨てになることがデメリットです。
しかし、小規模企業共済の掛金は月額1,000円からなので、無理のない掛金月額に設定して加入を継続することで、掛け捨てを回避できます。

掛金納付月数が20年未満で任意解約をした場合、掛金合計額を下回る

掛金納付月数が20年未満で任意解約をした場合、解約金は元本割れします。ただし、あくまで自己都合による任意解約や、12か月以上掛金を滞納して機構解約になった場合です。
退職金制度ですので、法人の解散や、役員が病気やけが、または65歳以上で退任した場合、共済契約者が亡くなられた場合などに受け取る共済金は元本割れしません。
20年未満の任意解約や延滞による機構解約を回避するには、やはり掛金を減額する方法が効果的です。掛金を最低金額の1,000円に減額することで積み立ての負担を減らし、任意解約や納付の延滞を避けられるでしょう。
また、事業資金等が必要になったときは、掛金納付期間に応じた貸付限度額の範囲内で貸付を受けられます。借り入れ理由により利率が異なり、年利は0.9~1.5%です。もしものときは低金利の貸付制度を活用すれば、解約を避けられるでしょう。

共済金受給時に課税される

共済金を受給するときは課税されます。しかし、サラリーマンと同じように退職所得控除になるため、全額が課税対象ではありません。そのためこちらも大きなデメリットとは言えないです。
共済金は一括でも分割でも受け取れます。一括で受け取る場合は税法上、退職所得扱いになり、分割で受け取る場合は公的年金等の雑所得扱いになります。
一括と分割を併用で受け取ることも可能ですが、その場合は一括分が退職所得扱い、分割分が公的年金等の雑所得扱いです。いずれの受け取り方を選んでも税の優遇があります。

逆に小規模企業共済にはどんなメリットがある?

小規模企業共済には、経営者や役員、個人事業主にとって多くのメリットがあります。どのようなメリットがあるか確認しましょう。

掛金が全額所得控除になる

小規模企業共済の掛金は、全額が小規模企業共済等掛金控除として、課税対象の所得から控除されます。掛金は前納も可能で、1年以内の前納掛金も控除可能です。
全額が所得控除されるため、掛金額が大きいほど税制メリットが大きいです。退職金を積み立てながら、節税もできることが小規模企業共済の大きなメリットです。

無理なく積み立てできる

掛金は月額1,000円から7万円まで500円単位で選べます。掛金額が大きければ大きいほど節税効果が高いですが、月々の負担になることも考えられます。資金繰りが厳しくなるなど、毎月の掛金を捻出するのが難しくなれば減額も可能です。
最低掛金は1,000円のため、無理のない金額にすれば、継続しやすいでしょう。反対に余裕があれば掛金の増額も可能です。掛金は途中で変更できるので、状況に合わせて金額を選べることも小規模企業共済のメリットです。

共済金受取時は退職金扱いになる

共済金を受け取るときはサラリーマンと同様に退職金の扱いになるため、税の優遇があることがメリットの一つです。
税制上の扱いは、共済金等の種類や受け取り方、年齢などによって異なります。共済金等の種類は請求事由によって以下の4種類に分けられます。

共済金等の種類 個人事業主 法人の役員 共同経営者
共済金A
  • 個人事業を廃業した場合
  • 共済契約者の方が亡くなられた場合
  • 法人が解散した場合
  • 個人事業主の廃業に伴い、共同経営者を退任した場合
  • 病気やけがのため共同経営者を退任した場合
  • 共済契約者の方が亡くなられた場合
共済金B
  • 老齢給付(※1)
  • 病気やけが、または65歳以上で役員を退任した場合
  • 共済契約者が亡くなられた場合
  • 老齢給付(※1)
  • 老齢給付(※1)
準共済金
  • 個人事業を法人成りして加入資格がなくなり、解約した場合
  • 法人の解散、病気、けが以外の理由、または65歳未満で役員を退任した場合
  • 個人事業を法人成りして加入資格がなくなり、解約した場合
解約手当金
  • 任意解約
  • 機構解約(※2)
  • 法人成りして加入資格がなくならなかったが、解約した場合
  • 任意解約
  • 機構解約(※2)
  • 任意解約
  • 機構解約(※2)
  • 共同経営者の任意退任による解約
  • 個人事業を法人成りして、加入資格がなくならなかったが解約した場合
  • ※1…65歳以上で180か月以上掛金を納付された方
  • ※2…掛金を12か月以上滞納した場合

引用元:共済金(解約手当金)について│小規模企業共済(中小機構)

共済金の受け取り方法は次の3種類があります。

  • 一括受取り
  • 分割受取り
  • 一括受取りと分割受取りの併用

分割受取りまたは一括受取りと分割受取りの併用を希望する場合、次の要件を満たす必要があります。

  • 共済金Aまたは共済金Bである
  • 請求事由が共済契約者の死亡ではない
  • 請求事由が発生した日に60歳以上である
  • 共済金の受け取り額が、分割受取りは300万円以上、一括・分割併用で受け取る場合は330万円以上(一括受取りが30万円以上、分割受取りが300万円以上)

準共済金や解約手当金は要件を満たさないため、一括受取りのみとなります。共済金は、受け取り方法によって税制上の取り扱いが異なります。
共済金または準共済金を一括で受け取る場合は退職所得扱いですが、共済金を分割で受け取る場合は公的年金等の雑所得扱いです。
一括と分割を併用して受け取る場合、一括分は退職所得扱いで、分割分は公的年金等の雑所得扱いになります。
また、任意解約や共同経営者が任意退任する場合、年齢が65歳以上であれば退職所得扱いになりますが、65歳未満であれば一時所得扱いです。12か月以上の掛金滞納による機構解約で解約手当金を受け取る場合も一時所得扱いになります。

掛金を6か月以上納付すれば共済金が出る

退職金制度は長丁場で、短期間の加入では損をしてしまうと思いがちですが、そのようなことはありません。小規模企業共済は、加入後に掛金を6か月以上納付していれば、事業をやめた場合に共済金が出ます。(共済金A、共済金Bの場合)

低金利の貸付制度を利用できる

小規模企業共済の契約者は、掛金の範囲内で貸付制度を利用できます。貸付制度には以下の種類があります。

  • 一般貸付け
  • 緊急経営安定貸付け
  • 傷病災害時貸付け
  • 福祉対応貸付け
  • 創業転業時・新規事業展開等貸付け
  • 事業承継貸付け
  • 廃業準備貸付け

一般貸付けは、もしものとき迅速に事業資金を借り入れできる制度です。限度額は掛金の範囲内(掛金の7〜9割)で、10万円以上2,000万円以内の金額を5万円単位で借り入れできます。利率は年1.5%の低金利です。
一般貸付け以外の貸付制度は、掛金の範囲内で50万円以上1,000万円以内の金額を5万円単位で借り入れできます。利率は一般貸付けよりさらに低い年利0.9%です。

小規模企業共済の運用について

中小機構では、小規模企業共済法に基づき「小規模企業共済資産運用の基本方針」を策定し、長期的な観点から安全かつ効率的な運用を行うため、リターン・リスクの特性が異なる複数の資産に分散投資しています。
構成割合は、満期保有目的の国内債券(簿価)を含む自家運用資産が約8割で、約2割は運用機関に委託しています。
過去5年の運用利回りは以下のとおりです。

平成30年度 令和元年度 令和2年度 令和3年度 令和4年度
運用資産全体 0.99% ▲0.07% 5.26% 1.40% 0.36%
自家運用資産 1.15% 1.06% 1.00% 0.89% 0.85%
委託運用資産 0.30% ▲5.05% 25.65% 3.53% ▲1.43%

引用元:小規模企業共済資産 令和4年度の運用状況│中小機構

令和5年3月現在の在籍人数は約162万人で、資産運用残高は約11兆1,313億円となっております。

まとめ:小規模企業共済に大きなデメリットはなく、むしろ断然メリットの方が大きい

小規模企業共済は国の機関である中小機構が長期的な観点で安全かつ効率的に運用を行っており、安心と言えます。

加入期間が12か月未満での解約は掛け捨てになることや、20年未満での解約は元本割れするといった点がデメリットと感じる方もいらっしゃるでしょうが、これらはいずれも任意解約した場合です。月額1,000円~の無理のない掛金に設定して加入を継続することで、任意解約を回避できるため安心です。また掛金はいつでも簡単に変更が可能ですので、事業の状況が変わった際に掛金を変更して加入を継続できます。いざというときには掛金の範囲内で低金利の貸付制度を利用できる点も見逃せません。

さらに掛金は払い込むときも、共済金を受給するときも税制上の優遇があります。小規模企業共済は総じてデメリットよりもメリットが多い制度なので、引退後のことを考えて加入をご検討ください。